アオモンギンセダカモクメ
Cucullia argentea (Hufnagel, 1766)
ヤガ科
開長・38mm
分布・本州、四国、九州、対馬
環境省レッドカテゴリ・準絶滅危惧
上翅の地色は、まるでヨモギを思わせる草色。そこに、銀白色(単なる白ではない。銀なのである)の紋様がいくつも散る。下翅は一様に白っぽい。ギンモンセダカモクメと並び、地味でぱっとしない色彩の種が多い日本産Cucullia属の中では、札付きの美麗種。とにかく控えめな美しさがいい。上翅の銀白色紋は、写真に撮ると単なる白にしか写らないのだが、実際には鏡のように光り輝いている。こういう色の紋様を持つガは、国内外に決して少なくないのだが、この色を写真でありのままに封じ込めることができないのは、人類の科学技術の限界と言っていい。
しかし、すでにギンモンセダカという名の種がいるのだから、これを踏襲してアオ「ギンモン」セダカにすればいいものを、なぜわざわざ語句を逆にしたのか、命名者の意図がよく分からない。ややこしくなるだけだろうに。
ギンモンセダカモクメ同様、広大な草原環境が長期にわたり維持されている環境に限って生息する。しばしばギンモンセダカと混在するが、こちらの方が遙かに珍しく、そう簡単には出会えない。成虫は年一回、秋口の短期間のみ出現し、駆け足でいなくなっていく。日没後すぐ草原から飛び出し、ツリガネニンジンなどの花を訪れては吸蜜する。深夜にはヨモギ類の草葉に止まって休む。基本的な立ち振る舞いは、ギンモンセダカのそれと大差ないように思える。
食草はカワラヨモギが知られるが、海外では数種のヨモギを食すらしいので、本種の国内での食草嗜好性については、今一度検討の余地があるだろう。秋口に産み付けられた卵から孵った幼虫は、本格的な冬が来る前にヨモギ(たぶん花穂)を食ってみるみる成長し、蛹となる。本種を含めヨモギ食いのCucullia属各種は、幼虫期(特に終令期)の体色が驚愕のレベルでヨモギの花穂そっくり。しかも、そのなりでヨモギの花穂に止まって日中静止しているため、発見のしにくさが尋常ではない。か弱いイモムシのこと、ひとたび敵に見つかったらもう為す術がないため、如何に見つからないよう擬態するかという方向に淘汰がかかったのだろう。
もともと非常に珍しいガだったが、草原環境の消失に伴い、本種の確実に生息する場所は次第に減ってきている。かつて、東北地方に本種の一大産地があったが、最近はここで見つかっていないらしい。
※引用文献
後日追加。
0コメント