ホシガガンボモドキ
Bittacus sinensis Walker, 1853
ガガンボモドキ科
前翅長・25mm前後
分布・本州、九州、中国大陸
環境省レッドカテゴリ・情報不足
全身がオレンジ色をした、脚のひょろ長い羽虫。翅の特定部位には、複数の黒点が散らばる。外見の似た種が多い仲間だが、国内でこのような翅の斑紋パターンを持つ種は他にいない。また、翅脈の走り方にも特徴がある。
ガガンボモドキは、一見して大きな蚊の親戚・ガガンボに似た風貌の虫だが、それとは全く縁のないシリアゲムシの仲間である(さらに言えば、シリアゲムシの仲間は、蚊よりもむしろノミと近縁)。脚はとても弱々しく、平坦な場所で自立できないため、野外では例外なく前脚(場合により中脚も)の爪を草葉にひっかけ、懸垂選手の如くぶら下がる体勢で止まる。
そんななよなよした風体に似つかわしくなく、ガガンボモドキそのものは非常に凶暴な肉食昆虫で、その獲物に対する捕殺能力は高い。夜行性の彼らは、草葉や花にぶら下がって他の弱小な昆虫が近寄ってくるのを待ち伏せている。そして獲物が来るや、高速で長い後脚を前方に繰り出し、ムチのようにしなやかな脚の先端部(フ節)で獲物を絡め取ってしまう。捕まった獲物はすぐさま囓られるが、細くて小さな口器でチビチビ囓られる割に、短時間で沈黙することが多く、何らかの毒成分を注入されているのかもしれない。
ホシガガンボモドキは、これまで平地の河畔林や雑木林などで見出されている種で、成虫は初夏にだけ姿を現す。日中は薄暗い茂みで休んでおり、脅かしても短距離をよろよろ飛んで止まる程度だが、日没後はまるで性格ががらりと変わる。草間を非常に敏速に、縫うように飛び回り、しかも一度飛ぶとなかなか止まらず、追跡はかなり難しい。
ガガンボモドキ類には、交尾時にオスがメスに婚姻贈呈(メスに餌を渡して、それをメスが食う間に交尾をする)の習性を持つものがいくつも知られており、海外では動物行動学の観点から盛んに研究されてきた。ホシガガンボモドキも間違いなくその習性を持つはずだが、日本ではまだ誰も目撃していない。そもそも、国内に少なくとも十数種はいるガガンボモドキ類の中で、実際に野外で婚姻贈呈の行動が観察された種自体が寡少である。夜行性で観察が面倒なのと、人間にとって害にも益にもならない虫なので、これまで国内で研究する人間がほとんどいなかった経緯がある。
ホシガガンボモドキは、数ある日本産ガガンボモドキ類の中でも近年特に発見が至難な種と言える。かつて記録のある、東日本と西日本それぞれの産地に複数回出向いたが、現在そこは他種のガガンボモドキ類に席巻されている状態で、生息を確認できなかった。それら場所はいずれも、外見上はさほど悪い環境には見えないため、本種の生息には何か微妙な環境条件が必要なのかもしれない。
もちろん、河川改修に伴う河畔林の伐採、雑木林の宅地化などは本種の生息基盤に打撃を与えるであろうことは言うまでもない。
鬱蒼とした河畔林のヤブ。鬱蒼としたと言っても、林床には適度に日が差し込む。ホシガガンボモドキが好む環境。
※引用文献
後日追加。
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