テラニシケアリ(テラニシクサアリ)

Lasius orientalis Karawajew, 1912 

アリ科 

体長・3.5mm(働きアリ)

分布・北海道、本州、朝鮮半島、極東ロシア 

環境省レッドカテゴリ・準絶滅危惧 

全身が黒色で、漆を塗ったように強い光沢がある。本種を含むケアリ属クサアリ亜属は、国内に5種が知られている分類群だ(実際には、それに加えてさらに若干の未記載種がいると言われる)。この仲間は、湿潤な雑木林に好んで生息し、大木の根元に大規模なコロニーを形成する。そこから、働きアリが四方へ長大な採餌行列を伸ばし、たまたま道先で居合わせた他の生物を集団で襲って餌とする。あるいは、樹幹(自身の営巣した木、近隣に生える木を問わず)へと登っていき、樹上のアブラムシやカイガラムシの排泄する甘露を集める。

クサアリの仲間は、いずれの種も外見が非常に似たり寄ったりで紛らわしく、種同定どころか分類自体が難しい。したがって、テラニシケアリを他の近似種から外見で区別するのも結構難しいのだが、テラニシの巣周辺ないし行列中には、他種のクサアリのそれには決して見られない好蟻性の甲虫が特異的に住む。好蟻性昆虫の種構成から、宿主側たるアリの種の見当を、つけられなくもない。また、テラニシは樹幹へ伸ばした行列上に、木屑や土砂で作った長大なシェルターを被せて隠す習性があるが、これは他種の日本産クサアリ類では見られないものである(アブラムシやカイガラムシのいる箇所のみ、パッチ状にシェルターを被せることはあっても)。

本種はクサアリの中では、比較的標高が高くて涼しい地域に限って生息する傾向が強い。また、他種のクサアリと共に、一つの森の中で近接して巣を構えることも珍しくない。どこの生息地でも、本種のコロニーの密度は低いのが普通である。

クサアリ亜属の各種は、新女王が新しいコロニーを自力で立ち上げず、他種のケアリ属のアリの巣内に侵入してこれを乗っ取る形でコロニーを創設する。どの種のアリの巣を乗っ取るかは、クサアリの種により異なるらしく、テラニシの場合キイロケアリの巣が標的にされることが知られている。この種以外のアリの巣も乗っ取るか否かに関しては、まだ調査研究の余地がある。


フィールドにおける出現頻度が低いことから、比較的希少な種と見なされている。また、冷涼な環境に限って生息することなどから、今後夏期の長期化する異常高温などが本種の生息にとって脅威になる可能性はある。

他方、本種はもともと出現頻度の低い珍種である。昔から珍しかった種を、近年の人為的要員で急速に減った「絶滅危惧種」と同列に扱うことが果たして適切なのかという疑問も、個人的になくはない。レッドリストはあくまでも「絶滅しそうなものリスト」であって、「物珍しいものリスト」にすべきではないのである。この問題は、テラニシケアリに限った話ではない。


※引用文献

後日追加。

精霊の庵 - 無名の絶滅危惧昆虫

環境省レッドリストに掲載された、800種余りの絶滅危惧昆虫たち。そのうち過半数を占めるのは、小さくて地味で取るに足らない外見のハエ、ハチ、カメムシ、ガ、ハナクソサイズの甲虫など。図鑑にさえしばしば載らず、一般に存在も知られぬまま滅び行く、小さき者達の集う場所。