フタモンマルクビゴミムシ

Nebria pulcherrima pulcherrima Bates, 1873 

オサムシ科 

体長・12mm程度 

分布・本州、四国、九州、中国大陸、台湾 

環境省レッドカテゴリ・絶滅危惧IB類

全身が黄色っぽい褐色。上翅の後方には、その名の通り一対の黒い紋が浮かび上がるが、この紋の出方には個体により相当に変異が見られ、典型的な「二紋」に見えないこともしばしば。上翅の左右両側は、まっすぐというよりは緩くカーブするため、背面から見れば全体的に丸っこい体型に見える。脚や触角はスラッとして長い。

人の手で荒らされていない、広大な河川敷に生息する。中流域のきめ細かな砂地を好むが、ただ砂があればいい訳ではなく、地面から汚染されていない伏流水が染み出ていることが生息に重要らしい。夜間、砂地の表面に出てきて活動し、他の小動物を襲う。本種は春と秋に活動のピークを持ち、夏には一度活動をやめて休眠するという。

この精霊は、普通のゴミムシ類のように日中の隠れ家として石や木っ端の下を利用することが少なく、柔らかい砂の中に、ランダムに体を埋めて隠れていることの方が多いようだ。私はかつて西日本にある本種の一大多産地において、日中石を裏返しまくって探すもただ一匹しか見つけられなかった。ところが、日没と同時に突然そこら中の砂地表面に、ゾンビの如く多数の個体が出現したのだ。彼らの多くは背中に砂をかぶっていたほか、強い照明を浴びせられると後ずさりに砂へ体を埋めるそぶりを見せる個体が見られた。

こうしたことから、彼らが砂中に潜って身を隠す能力を持っているのは明らかである。言い換えれば、日中いくら汗水垂らして生息地で本種を石起こしにより探しても、恐らく本来そこに生息しているであろう個体のうちごく僅かしか発見できないということである。


人為的に攪乱されていないことに加え、微妙な環境条件を生息に要求する種であるため、もともと分布域は限られていたが、近年は全国的に生息地がことさら縮小した。進む河川の水質悪化、改修工事により、本種を確実に見られる場所は非常に少なくなっている。


同属近縁種カワチマルクビゴミムシN. lewisi Bates, 1874。フタモンと同様、河川敷脇の湿った砂地に生息する。この個体はそうではないが、時に典型的なフタモンそっくりな色彩と模様の個体が出現するため、非常に紛らわしい。こちらの方が、上翅の左右両側がよりまっすぐ平行であること、体格の割に胸部の幅が広いことなどで一応は区別可能だが、慣れないと難しい。

フタモンに比べて生息条件の許容幅がずっと広く、全国的に普通に見られる。

生息地では当然の如くフタモンだと思って撮影したが、後から見て自信がなくなってきた個体。体型が、典型的なフタモンより細く見えるので、カワチの色変わりに過ぎないかもしれない。

精霊の庵 - 無名の絶滅危惧昆虫

環境省レッドリストに掲載された、800種余りの絶滅危惧昆虫たち。そのうち過半数を占めるのは、小さくて地味で取るに足らない外見のハエ、ハチ、カメムシ、ガ、ハナクソサイズの甲虫など。図鑑にさえしばしば載らず、一般に存在も知られぬまま滅び行く、小さき者達の集う場所。