イトアメンボ

Hydrometra albolineata (Scott, 1874) 

イトアメンボ科 

体長・14mm程度 

分布・北海道、本州、四国、九州、対馬、奄美大島 

環境省レッドカテゴリ・絶滅危惧Ⅱ類 

全身が黒ずんだ褐色。ナナフシのように細い棒状の体をしており、そこから針金のようになお細い脚と触角が生えている。頭部は長く、真ん中より少し付け根寄りの辺りに綺麗な球形の複眼が付く。個体により、翅が長くて飛べるものと短すぎて飛べないものがいる。外見の酷似した近似種がいくつかいるが、本種はそれらより明らかに体格が大柄で黒っぽいこと、オスの腹部先端近くの腹面(第7腹板)に突起がないことなどの特徴で区別可能。

非常に繊細な姿をしたカメムシの一種で、水田や溜池の岸辺にほど近い濡れ地に生息する。いる場所では一カ所にまとまった個体数が集まっていることが多い。とぼけた外見に似合わず肉食のハンターで、表面張力で水面をつるっと走り、溺れた小昆虫に襲いかかる。細い針状の口吻を獲物に突き刺し、中身を吸い取る。

全国的に非常に稀な精霊で、現在行けば確実に見られる場所はほとんどない状況になってしまった。似たような生態を持つヒメイトアメンボ H. procera Horváth, 1905などの近似種は、まだ各地で普通に見られるのとは対照的。特にヒメイトアメンボの場合、現在でも東京都心部の緑地公園などでさえ、池の周りでたくさん見られるほどだ。精霊もまた、似たような環境で普通にいてよさそうなものなのだが、なぜ本種だけがここまで激減したのかは謎。

この精霊は、文献によっては「昔は各地で普通に見られた」と記述されており、事実古い文献では日本中あちこちで採集されたという記録が残されている。しかし、これらの中には普通種であるヒメイトアメンボなどを誤認したと思われる記録が少なくない可能性が指摘されており、もともと昔から珍しい種だったのではないかとも思えてくる。


※引用文献

後日追加。

精霊の庵 - 無名の絶滅危惧昆虫

環境省レッドリストに掲載された、800種余りの絶滅危惧昆虫たち。そのうち過半数を占めるのは、小さくて地味で取るに足らない外見のハエ、ハチ、カメムシ、ガ、ハナクソサイズの甲虫など。図鑑にさえしばしば載らず、一般に存在も知られぬまま滅び行く、小さき者達の集う場所。